AIの進化に伴い多様化・高度化する半導体需要、医薬品の安定供給への要請、そしてDX・GXによる変革の加速。企業を取り巻く環境が大きく様変わりするなか、太陽ホールディングスは長期経営構想「Beyond Imagination 2030」をもとに、世界トップシェアのソルダーレジストメーカーとして培ってきた強みを起点に、事業の3本柱であるエレクトロニクス、医療・医薬品、ICT&S(Sustainability)によるシナジーを生み出そうとしている。
鍵となるのは、過去の成功体験にとどまらず、顧客の声と市場の変化を見据え、自ら新しい市場をつくろうとする姿勢だ。2030年に向けて、どのような成長ステージを描いているのか。社長就任から1年余りを経た齋藤 斉(さいとう ひとし)氏に、激動の時代ならではの経営の視点と、「楽しい社会を実現する」という理念をどのように経営に息づかせているのかを聞いた。
“人と組織”こそ、太陽ホールディングスの強み
―― 社長に就任されてから1年余りが経ちました。この1年を振り返って、太陽ホールディングスの強みや今後の可能性をどのように捉えていますか。
社長に就任して、私自身の仕事は大きく変わりました。分かっているつもりでも実際には経験したことのない業務も多く、自分自身も学びながら進めてきた1年だったと思います。その中で強く感じたのは、メンバー個々が持っている力とそれを活かす組織です。優秀であることはもちろんですが、大きな変化があった時にもそれを受け止めて前に進める体制がある。そのことが経営者としての支えになっています。
そのベースとなっているのが、盤石な基盤です。私自身、ソルダーレジストに代表されるエレクトロニクス事業に長らく関わってきましたが、私が現場を離れてからも、しっかりと成果を出し続けています。加えてコーポレート部門が充実してきたことで、次のステージへの体制が整いつつあると感じています。
―― 「次のステージ」とは、具体的にどのような段階を意味しているのでしょうか。
これまで培ってきた経営基盤を活かしながら、新しい技術や新しい事業に挑戦していくフェーズです。もちろん、既存事業は大切です。ただ、その牙城を守ろうとするだけでは、次なる成長は得られません。確立した既存事業があるからこそ、それを深化させつつ、新しい技術・事業・市場に挑戦していけると考えています。
もともと太陽ホールディングスには、変化を恐れずに挑戦をする風土があります。しかも、その挑戦を楽しめる人材と組織が着実に育っている。日々、社内で話していることではありますが、この1年で改めて「変化に強い組織」を実感し、大きな可能性を感じています。
事業3本柱でグループの成長を支える
―― 太陽ホールディングスは、エレクトロニクス、医療・医薬品、ICT&Sという3事業を柱にビジネスを加速させています。一見すると異なる領域ですが、2030年に向けて、それぞれをどのように位置付けていますか。
確かにそれぞれ性格の違う事業ですが、この3本柱はグループ全体の持続的成長を支える事業ポートフォリオ※1として位置付けています。つまり、異なる役割を担うことでリスク分散を図るだけではなく、経営資源の最適配分や全体最適を促し、シナジーを創出するための太陽ホールディングスの長期的戦略の1つです。
エレクトロニクス事業が、引き続きグループを牽引していく中核事業であることは間違いありません。ソルダーレジストを中心に、これまで築いてきた基盤がありますし、AIや宇宙関連など、市場そのものも大きく変化・拡大しています。そこに対して、私たち自身が新しい材料技術をつくり出し、市場をリードしていきたいと考えています。一方で、エレクトロニクスだけに依存すると、どうしてもシリコンサイクル※2や為替の影響を受けやすくなります。そこで、次なる成長ドライバーを育てていくことが重要になります。それが医療・医薬品であり、ICT&Sにほかなりません。
※1事業ポートフォリオ 固有の事業に頼りすぎず、複数の事業を組み合わせることで、変化に強く、長く成長できる会社にすること
※2シリコンサイクル 半導体業界で繰り返されている約3〜4年周期の景気循環(好況と不況の波)
―― 医療・医薬品とICT&Sのビジネス展開とグループにおける役割について教えてください。
まず医療・医薬品は、製造販売と製造受託の2つの業態に大別できます。製造販売では医薬品の安定供給に欠かせない長期収載品※3を手掛ける他、日本向け医薬品の外観検査、包装並びに輸出事業を担う海外拠点を設けるなどグローバル展開も始まっています。製造受託では、固形製剤および注射剤の開発から製造、包装までをまとめて受託するCDMO(Contract Development and Manufacturing Organization)というビジネスモデルを追求しています。近年では、再生医療・遺伝子治療といった新規モダリティ、歯科技工物の製造から販売にも挑戦し、相乗効果を発揮しています。
ICT&Sは、デジタル技術で事業を支えるICTと、社会課題の解決につながる環境・エネルギー・食糧などのSustainability領域を組み合わせた事業です。DXやGXを推進し、グループ全体に横串を刺し、競争力を高める役割を担っています。特徴的なのはICT事業です。単に太陽ホールディングスグループのビジネス基盤を強化するだけではなく、業務課題の解決から生まれた仕組みを自社プロダクト化し、外部にも提供していく動きが出てきていることです。医薬品業界向けの生成AIプラットフォーム「STiV(スティーブ)※4」が、その一つ。太陽ホールディングスらしいシナジーの形だと思います。
※3長期収載品 新薬ではなく、ジェネリックに置き換え可能な先発品
※4 STiV(スティーブ)太陽ホールディングスグループで培われた現場課題をもとに開発された生成AI活用プラットフォーム。AIによる検索・要約機能を通じて、組織内に蓄積された知見の活用と技術継承を促進。
―― 3つの事業を組み合わせて、シナジーを生み出す秘訣はどこにあるのでしょうか。
共通しているのは、顧客対応力です。技術・品質・信頼性・営業・マーケティングを含めてお客様の声に真摯に向き合い、総合力で応えてきたことが、太陽ホールディングスの強みだと思っています。社会・ビジネス環境が予測不可能となった現在、ここで培ってきた技術・ノウハウ・知見は、「変化対応力」という言葉に置き換えることもできます。
そこで大切にしたいのが、事業会社間の人材交流や、現場同士の学び合いです。実際に行ってみなければ分からない気づきがあります。「なぜこのやり方をしているのか」と問い掛けから、新しい発見が生まれる。その気づきが、品質の向上にも、人の成長にもつながっていく。エレクトロニクス、医療・医薬品、ICT&S、それぞれが強くなることはもちろんですが、互いの顧客対応力や変化対応力を持ち寄り、新しい洞察力を磨いていく。そこから、太陽ホールディングスの事業ポートフォリオならではのシナジーが生まれると考えています。

顧客の先にある未来を見に行き、市場を創造
―― ソルダーレジストという、すでに強いポジションがある中、さらなる挑戦を続け、新しい市場を開拓しようとしているのはなぜでしょうか。
現在のポジションは、これまで多くの先輩方が築いてきた大切な資産です。ただ、その強みに安住してしまえば、成長は止まってしまいます。市場は常に変化していますし、お客様が求める技術も、製品に求められる性能も変わっていきます。だからこそ、今の延長線上で考えるだけではなく、次にどのような市場を生み出すかが大切です。その意味では、市場の開拓というより、市場の創造だと考えています。
その際に重要になるのが、ビジネスディベロップメント部門です。単に今ある製品を販売するのではなく、お客様の先にいるお客様、つまり最終製品や次世代技術に関わるプレーヤーの声を聞きに行く。そこで将来の技術ロードマップや、これから必要になる材料の姿を把握し、自社の開発や事業戦略につなげていくことが重要です。私がエレクトロニクス事業の責任者だった時に、この役割を担うビジネスディベロップメント部を立ち上げました。
―― ビジネスディベロップメントは、いわゆる営業やマーケティングとはどのように違うのでしょうか。
営業やマーケティングは、既存の製品や技術を、誰にどう届け、市場をどう広げていくかが大きな役割です。一方でビジネスディベロップメントは、現在視点だけではなく、将来視点から現在を捉える取り組みです。5年後、10年後にどのような技術が必要とされるのか。その変化をつかみ、そこから逆算して、必要な材料や技術、体制を築いていく。いわば、未来から現在を見るアプローチです。市場の創造と位置付けているのは、そのためです。
例えば、自動車の世界では、ガソリン車からEVへの移行が進んでいます。そうなると、サプライチェーンも変わりますし、求められる技術も変わります。こうした変化を早くキャッチしなければ、気づいた時には市場の前提そのものが変わっている、ということになりかねません。だからこそ、顧客の先にある変化を見に行くことが重要なのです。
―― 太陽ホールディングスにとってビジネスディベロップメントは、自ら市場を創造していくというプライドの裏付けなのでしょうか?
プライドというよりも、危機感を出発点に価値を創出するということだと思います。なぜなら、トップシェアだから大丈夫だという発想になった瞬間に、会社は弱くなってしまうからです。ソルダーレジストはプリント基板を支える重要な材料です。しかし、ともすれば「どれを使っても同じ」と見られてしまうこともあります。実際に海外では、より安価な製品も登場しています。だからこそ、この材料がどれほど重要な役割を担っているのかを伝え、技術や品質、安定供給、顧客対応力を通じて価値を認めてもらい、かつその先にある価値を創出する必要があるのです。現在の強みを守るだけでなく、未来の技術課題を先取りし、新しい製品やサービスを生み出していく。その積み重ねが、太陽ホールディングスの成長につながっていくと確信しています。
次世代に引き継ぎたい太陽ホールディングス像とは
―― 新しい市場を創造し、事業ポートフォリオを進化させていく上で、経営判断の軸にしていることは何でしょうか。
最も大切にしているのは、長期的な企業価値です。目の前の業績ももちろん重要ですが、それだけで判断するのではなく、この事業や取り組みが将来の太陽ホールディングスにとってどのような意味を持つのかを常に考えるようにしています。
私たち経営陣の責任は、次の世代に何を引き継ぐのかを考え続けることにあります。具体的に挙げると多くの判断軸がありますが、長期的な企業価値を判断する上では、社会にとって本当に価値があるのか、お客様にとって意味のある提案になっているのか、そしてそこに取り組む社員自身が本気で向き合っているのか。こうした視点を大切にしています。
―― その先に、太陽ホールディングスが掲げる「楽しい社会」の実現があるということでしょうか。
「楽しい社会を実現する」という経営理念は、単なるスローガンではなく、私たちが事業を考える時の原点です。例えば、高性能な半導体や電子機器が進化することで、人々の暮らしや産業の可能性が広がる。必要な医薬品が安定して供給されることで、安心して暮らせる基盤が支えられる。さらには、ICTやサステナビリティの取り組みによって、企業や社会がより良い方向へ変わっていく。こうしたことを具現化していくことで、太陽ホールディングスならではの「楽しい社会」を築いていきたいと思います。
その未来は、経営陣だけでつくるものではありません。エレクトロニクス、医療・医薬品、ICT&S、それぞれの現場で働く一人ひとりが日々の積み重ねの中で変化を捉え、自ら考え、周囲を巻き込みながら挑戦し続けていくことで形になっていくものです。このような人材を、私たちは「自律型人材」と呼んでいます。
●プロフィール
齋藤 斉
1965年、東京都出身。1996年に太陽インキ製造株式会社(現 太陽ホールディングス株式会社)に入社。海外営業部長としてグローバル展開をけん引し、その後は海外子会社の代表を歴任。2016年に取締役に就任し、2022年には代表取締役副社長及びエレクトロニクスカンパニーCEOとして経営の中枢を担う。2025年より代表取締役社長に就任。
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