ニュースリリースでは伝えきれない背景から、その先のストーリーまで掘り下げる#TAIYO NEWS plus。本特集では、インターフェックスWeek東京2026で発表した内容をテーマに、前編・後編の2回に分けてお届けする。
医薬品・化粧品の研究・製造技術、包装、品質管理、DXソリューションが集結する「インターフェックスWeek東京2026」が、5月20日〜22日の3日間にわたって幕張メッセで開催された。会場がお台場から幕張へと変わった影響か、来場者数は約25,321人と減少傾向にあった。そのような状況の中、太陽ホールディングスのグループ会社であるファンリードのブースには過去最高となる約1,150人の来場者が訪れ、大きな盛況を博した。
近年、同展のトレンドは設備・機械などのハードウェア中心の展示から、製薬業務そのものを変革するDXへと移りつつあったが、今回はさらにAIを核に業務プロセスやビジネスモデルを変革し、新たな価値を創出する“AX”への流れが顕著となった。その中で、ICT事業を担うファンリードも”AX元年”を予感させる提案を示した。ファンリードは、グループ内の情報システム構築支援に加え、外部の顧客に向けたシステム開発やITインフラ基盤の受託構築を行っている。近年では、太陽ホールディングスグループを“実験場”として磨き上げた仕組みを独自プロダクトとして社外に提供・事業化することで、日本の製造業全体の発展に貢献していくことを目指している。そうした独自プロダクトのひとつが、法人向けAIナレッジマネジメントシステム『STiV(スティーブ)』だ。STiVは、太陽ホールディングスの医療・医薬品事業グループが抱えていた、高度専門業務におけるノウハウ共有不足と暗黙知の属人化という課題から生まれたサービスである。膨大な社内外データからのシームレスな検索、チャット形式での回答、文書生成を通じて専門知の共有と業務効率化を実現し、現在は製薬企業の薬事や研究の現場などにも導入が広がっている。
今回の出展では、株式会社ユニオンシンクの医薬品業界向け品質管理システム『品質デザイナー for GxP』との連携機能として開発中の機能デモを初公開。デモを通じて、製薬現場に蓄積された文書や品質管理データを“使える知識”へ変える可能性を提示し、来場者の関心を集めた。
インターフェックス2026で見えた、医薬品業界の新たな変革軸
インターフェックスは、製造、包装、プラントエンジニアリング、設備保全、測定・検査、滅菌・クリーン化、物流・流通など、医薬品・化粧品業界の製造プロセスを支える最新技術が集結する場として発展してきた。しかし近年、その焦点は大きく変わりつつある。設備・機械の高度化にとどまらず、製薬業務そのものをデータでつなぎ、効率化・高度化するDXが主要テーマに移りつつあるのだ。その象徴ともいえるのが、医薬品の研究・製造から営業・マーケティングまで、業界全領域のDXソリューションを対象とする「ファーマDX EXPO」である。
もう1つの注目点が、今回から新設された「CMO/CDMO EXPO(製剤開発・製造受託展)」だ。CMOは医薬品の製造受託、CDMOは医薬品の開発製造受託を意味する。医薬品の高度化・専門化・多様化に伴い、製薬業界では外部の専門パートナーと連携しながら、開発・製造を進める動きが強まっている。CMO/CDMO EXPOは、こうした分業化・共創化が進む製薬バリューチェーンの変化を映し出す展示ゾーンといえる。
このように、インターフェックスには時代の変化に呼応した最新トレンドが凝縮されている。その中で、製薬業界のさまざまな課題をつなぎ、解決に導き、新たな価値を創出するためのキーワードとして注目されたのが、“AX(AI Transformation)”である。AIを単なる業務支援ツールとして導入するのではなく、蓄積された文書・記録・品質データを活用し、業務プロセスやビジネスモデルの変革につなげる。今回のインターフェックスは、製薬DXがAXのフェーズへ進み始めたことを物語っていた。
GxP領域で動き出す、“知識活用型”AX
AXとは、人間主導で行われてきた知識業務を、AIを前提に再設計する変革である。医薬品業界におけるAI活用といえば、これまでの主戦場は創薬領域だった。仮説構築、候補探索、実験優先順位付けなど、研究者の判断を支援し、ブレークスルーを後押しすることで、長期・高コスト・低成功率とされてきた創薬プロセスを前進させるエンジンとして期待されてきたからだ。
一方で、GxP※1対応や品質保証など、製造・品質管理領域でのAI活用は、これから本格化する領域といえる。創薬が競争優位に直結するコア業務だとすれば、GxP※1対応は非競争領域でありながら、医薬品の品質と信頼を支える不可欠な共通業務である。そのため各社は、逸脱報告書、CAPA※2文書、SOP※3、変更管理文書など、多様で膨大な文書を蓄積・管理する仕組みの整備に注力してきた。
※1GxP 「Good x Practice(適正●●実施基準)」の略称。医薬品や医療機器の各工程における信頼性と安全性を保証するための規範。X(●●)は対象業務によって異なる。
※2CAPA すでに発生した問題や不適合の根本原因を特定し、再発を防ぐための対策。単なる応急処置(現状復帰)ではなく、なぜ問題が発生したかを分析し、恒久的な解決策を講じることが求められる。※3SOP 「Standard Operating Procedure」の略称。医業務や作業の手順を標準化し、誰が実施しても同じ結果が得られるようにする文書。
しかし、日常業務の判断や意思決定、トラブルの再発防止策の検討、文書作成において、これらの文書を十分活用できているとは言い難い。AIによる横断検索や影響評価支援へのニーズは高いものの、そのためには社内文書や業務システムとAIを安全につなぐ仕組みが不可欠となる。特に、機密情報の取り扱いやアクセス権限の継承、情報漏洩リスクへの対応は避けて通れない課題だ。そのため、AI活用は法令やガイドラインなど外部情報の参照にとどまり、社内に蓄積された知見を活かし切れないケースも少なくなかった。
そこで次のステップとして求められるのが、特定業界・業務に特化したバーティカルAI※4への進化である。製薬業界の業務ルールや文書体系を理解し、社内外に分散する文書・記録・品質データを横断的に活用する段階へ進むことができれば、DXで蓄積してきたデータは“使える知識”へと昇華する。今回のインターフェックスで注目されたのは、まさにこの領域だった。
※4バーティカルAI 医療、金融、法務、製造など特定の業界や業務領域に特化して設計・学習されたAIサービス。専門領域のニッチなデータや業務ルール、法規制、既存システムとの連携を前提に学習されており、実務での精度と再現性が高い点が特徴である。
STiVが示した“医薬品業界向けVertical AI”の可能性
ファンリードが提供するSTiVは、まさにこうした文脈の中で存在感を示していた。STiVは、単なる汎用チャットAIではない。法令やガイドライン、社内文書、品質管理データなどを横断的に検索し、必要な情報を生成AIで要約・整理・文書化することで、製薬現場に蓄積された知見を“使える知識”へ変えることを目指している。
特徴的なのは、AIに社内情報を無秩序に学習させるのではなく、RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)と呼ばれる技術を駆使して、必要な文書やデータを横断検索し、その根拠を踏まえて回答を生成する点だ。これにより、一般的な生成AIで懸念されるハルシネーション※5を抑えながら、アクセス権限や機密情報管理にも配慮した形で、製薬業務に即したAI活用が可能になる。
また、今回のインターフェックスを象徴するトレンドの1つであるCMO/CDMOによるエコシステム化・分業化においても、STiVは重要な鍵を握る可能性を持つ。製薬会社、製造受託会社、品質保証部門、薬事部門、外部パートナーの連携が強まるほど、文書・記録・品質データは社内外に分散していく。その情報を一気通貫でつなぎ、必要な知見を引き出す仕組みが求められるからだ。
こうした観点から、STiVを前面に打ち出したファンリードのブースは、製薬DXがAXへと進む具体像を示す存在として注目を集めていた。それは、ベテラン社員の知見・経験・スキルに依存しがちだった品質保証・薬事業務を、組織全体で活用可能な“ナレッジ”へと高めるということ。医薬品業界の業務や文書体系に特化したバーティカルAIは、すでに現実味を帯びつつあるようだ。
※5ハルシネーション 生成AIが事実に基づかない情報を、あたかも正しいかのように生成してしまう現象
2026_edit.png)
AXは概念から実装へ。ファンリードブースで見えた“現場実装”のリアリティ
ファンリードのブースでは、医薬品業界に共通する課題を示しながら、STiVが社内文書や業務システムとどのように連携し、GxP対応に関わる知識業務を支援するのかを分かりやすく解説するデモが紹介されていた。さらに、その次なる展開として、複数のAIが役割分担しながら業務を進めるAIエージェントのコンセプトも示された。
例えばGxP対応では、過去の逸脱事例やCAPA※5文書を参照して類似案件を探し出す。あるいは、SOPや変更管理文書を横断的に確認し、影響範囲の把握を支援する。こうした機能は、属人化しがちだった品質保証・薬事業務における知見や過去記録を、組織全体で再利用可能な“ナレッジ(知識)”へと変える可能性を持つ。
AIエージェントのデモでは、通知の自動収集・自動仕分けから担当者への振り分け効率化、関連書類の検索、変更案の草稿作成へと進む流れの中で、複数のエージェントが連携し合うコンセプトが紹介され、来場者の関心を集めていた。
2つのデモが示していたのは、医薬品業界におけるAXが、もはや抽象的な概念にとどまらないということだ。DXによって蓄積された文書やデータを、AIによって現場の判断や文書作成に生かす。その具体像を提示した点に、医薬品業界向けバーティカルAIとしてのSTiVの意義がある。
では、こうしたAXは、実際の品質管理業務の中でどのように実装されていくのか。 その具体例として注目されるのが、今回のインターフェックスを契機にファンリードとユニオンシンクが発表した、STiVと品質デザイナー for GxPとの連携である。インターフェックスWeek東京2026レポート【後編】では、この連携が品質管理業務にもたらすインパクトを深掘りしていく。




関連リンク
.jpg&w=3840&q=75)