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【JPCA Show2026レポート後編】 JPCAアワード奨励賞を受賞した、次世代高速通信基板向け穴埋めインキを徹底解剖

#TAIYO NEWS plus2026.08.18
【JPCA Show2026レポート後編】 JPCAアワード奨励賞を受賞した、次世代高速通信基板向け穴埋めインキを徹底解剖

 AIサーバーや高速通信機器では、膨大なデータを基板上で高速かつ安定的に行き来させることが求められている。しかし、信号はただ線でつなげば届くわけではない。基板が何層にも重なり、配線が細く複雑になるほど、信号は狭く入り組んだ通り道を進むことになり、その過程で乱れやロス、熱の影響を受けやすくなる。

 このような、基板内部のミクロな課題の解決策として注目されているのが、「穴埋めインキ」と呼ばれる基板内部の穴を埋める材料技術だ。穴埋めインキはこれまで、穴を確実に埋めることで基板の信頼性と生産性を保つための材料だった。その役割を次世代高速通信基板で求められる、信号を乱さず通すための性能へと進化させたのが、JPCA Show2026でJPCAアワード奨励賞に選定された太陽インキ製造の『次世代高速通信基板向け穴埋めインキ』である。

 なぜ“穴の中”の材料が高速通信の未来を左右するのか。ここでは、その開発背景と革新性、産業へのインパクトを読み解いていく。

▼前編をまだご覧になっていない方は、こちらからお読みください。

見えてきたエレクトロニクス業界の地殻変動、その源泉は“材料”にあった | TAIYO Global Post


増え続けるデータ量と通信の高速化が、基板の“穴”の意味を変えた

 
 AI時代とは、超高速・大容量のデータ処理と通信の時代でもある。AIを支えるデータセンターや通信インフラでは、膨大な情報を高速に処理しながら、信号損失の抑制、消費電力の低減、発熱対策といった課題にも向き合わなければならない。その負荷は、サーバーや通信機器の内部にあるプリント基板にも及んでいる。

 その中で、プリント基板の高性能化を支えてきた代表的な技術が多層化である。多層化した基板では、重ねた配線層どうしを電気的につなぐために、スルーホール※1と呼ばれる導通穴が設けられており、その数は今も増え続けている。このスルーホールで重要な役割を担ってきたのが、穴埋めインキと呼ばれる機能性インキだ。スルーホールの内側に形成された銅めっきを保護し、基板の接続信頼性を支える重要な材料として用いられてきた。しかし、基板上を流れる信号のうち、スルーホールの中を通って伝わるものが増えてくると、 “穴”は単なる層間接続のための通り道ではなく、高速信号が通過する伝送路の一部として見直されるようになってきた。その結果、穴埋めインキにも、従来の保護という役割を超えた新たな性能が求められるようになったのである。

※1スルーホール 電子部品のリードを基板に挿入してはんだ付けすることで、電気的接続と機械的固定を同時に実現する穴。

 そのニーズにいち早く応える技術として開発されたのが、太陽インキ製造の次世代高速通信基板向け穴埋めインキである。太陽インキ製造は、基板表面を絶縁・保護し、微細な回路形成を支える機能性インキであるソルダーレジストのリーディングカンパニーとして知られている。ソルダーレジストが基板の表面を守るインキだとすれば、穴埋めインキは、基板の内部を守るインキである。用途は異なるが、「塗る」「硬化させる」「絶縁する」「信頼性を保つ」という点で共通する技術思想に立脚している。つまり、ソルダーレジストで培ってきた技術と知見を、次世代高速通信基板に求められる性能に再構築したことが、今回の“穴”の技術の出発点である。

埋める、から「信号を整える」へ。次世代穴埋めインキ開発の着眼点

 
 AIデータセンターや自動運転では、膨大なデータを遅延なく処理し、安定した判断や応答につなげることが求められる。その鍵を握るのが、電子機器内部を行き交う信号であり、いかに乱れなく、低損失で伝えられるかが次世代電子機器の価値を左右する。

 その変化を最前線で捉えたのが、太陽インキ製造の営業部だった。顧客から寄せられる要求や市場の兆しを拾い上げ、開発部門へとつないだのである。具体的には、後述する高周波領域での低誘電特性、バックドリル工法への適合性、既存品と同等の信頼性や印刷性に対する課題だった。

 開発部門はそれを単なる要望として受け取るのではなく、技術課題として吟味した。そして、従来から取り組んできた穴埋めインキの技術に着想して、信号の品質を支える材料設計へと落とし込んでいった。さらに、早い段階から生産技術部門も加わり、試作や生産条件の確立を進めていった。

 こうして、次世代高速通信基板向け穴埋めインキは製品化へと辿り着いたが、もう1つ重要なポイントがある。この開発が社内だけで完結したものではないということだ。顧客企業が検証フェーズで重要な役割を担い、実際の基板製造プロセスや求められる性能を踏まえながら改良を重ねたことが、現在の性能・品質に結び付いている。



低誘電特性・バックドリル工法への適応・研磨性という、3つの壁を越えた開発品

 

 開発では、低誘電特性、バックドリル工法への適応、研磨性という3つの大きな壁が立ちはだかった。ここでは、それぞれの壁に対してどのようなブレークスルーがあったのか、そして開発品がどのような成果を達成したのかを見ていくことにする。

①低誘電特性の壁

 高速通信基板では、信号が材料中を通る際の遅れや損失をいかに抑えるか、つまり低誘電特性が重要になる。その目安となるデータが、誘電率を示すDkと誘電正接を示すDfである。いずれも低いほど高速通信に向いている。

 この問題についてはこれまでも、低損失な基板材料の採用や回路設計、製造工程上の工夫など、さまざまな対策がなされてきた。しかし、スルーホールの数が増え、信号経路に占める比重が圧倒的に高まる中で、従来の方法では限界が見え始めていた。そこで、これを太陽インキ製造ならではの“穴”の技術で解決しようと考えたのである。

 しかし、そもそも従来の穴埋めインキは、基板材料と比べて電気信号への影響が大きい。そのため、信号の一部が反射したり、弱まったりといったインピーダンス※2の不整合(信号が通る環境の変化)が生じ、伝送損失につながる可能性があった。一方、原材料の変更で低誘電化を追求しようとすると、今度は穴埋めインキ本来の機能・性能が損なわれる。

 このトレードオフに直面して、技術開発部門は発想を転換した。穴を埋める材料としての信頼性を保ったまま「信号を乱しにくい材料」へ進化させるため、穴埋めインキそのものの材料設計を見直したのである。その結果、期待通りの低誘電特性を達成。同時に、幅広い周波数帯において低誘電特性を維持することに成功した(下図参照)。

左:従来品と開発品のDk/誘電率比較  従来品と比較して、開発品は信号を遅らせにくい(Dk3.5~3.6→Dk2.8~2.9) 右:従来品と開発品のDf/誘電正接比較 従来品と比較して、開発品は信号のロスを小さくできる(Df0.014→Df0.012)

※2インピーダンス 交流回路における電圧と電流の比を表すもので、抵抗の一種。周波数によって変化する。

 

②バックドリル工法への適応

 高速多層基板においては回路層をつなぐために穴を開け、その内壁に銅めっきを施す。この穴を、ボイド※3やすき間が生じないように埋めるために使われてきたのが、従来の穴埋めインキである。ただし、1つ大きな技術的課題が残されていた。バックドリル工法への適応だ。

 バックドリル工法とは、多層基板内で回路層どうしをつなぐための穴(ビア)のうち、信号伝送には使われない部分、いわば“行き止まりの枝道”だけをドリルで削り取り、伝送損失や信号反射を抑えるための技術である。
ところが、このバックドリル加工部に穴埋めインキを充填して熱硬化させると、基材から発生するガスの影響でボイド※3が生じてしまうおそれがあった。

 この問題に対しては、従来、水分や揮発成分をあらかじめ抜くために基板を加熱して乾燥させるベーク処理を行う方法が採られてきたものの、工程が増えてしまうことに加え、保管条件によっては再びガスが発生してボイドが再発するリスクが残るという課題があった。

バックドリル工法
バックドリル加工部のアウトガスによるボイド

 これらの課題の解決に向けて、穴埋めインキの組成そのものでバックドリル工法に適応したアウトガス※4対策を講じたのが次世代高速通信基板向け穴埋めインキだ。ポイントは、インキを低温で硬化させる設計にしたことだ。

ただし、低温でも硬化が進むように反応性を高めると、印刷時の室温でも時間とともに反応が進みやすくなり、インキの粘度が上昇して印刷性が落ちてしまう。
そこで、熱硬化樹脂と熱硬化触媒を見直して熱硬化温度を制御し、低温(80℃/60 min)で硬化しつつ、室温でも安定して扱えるインキを実現した。

※3ボイド はんだ接合部内に生じる空隙。接合強度や電気・熱伝導性能を低下させる不良要因となる。
※4アウトガス   材料や装置からガスが放出される現象で、樹脂やプラスチック、接着剤、塗料などから発生することがある。

〈従来品は硬化後にボイドが発生するが、次世代高速通信基板向け穴埋めインキではボイドがなく、バックドリル工法への適合性が高い〉

③研磨性

 従来の穴埋めインキは印刷・硬化後に表面が膨らんだ状態になるため、表面を研磨して平坦にする必要がある。しかし、研磨しにくい材料では、銅回路まで削ってしまい、銅厚のばらつきや基板反りにつながる恐れがある。研磨性は基板製造の生産性にも関わるため、多くの基板メーカーにとって重要な要求特性になっていた。

 次世代高速通信基板向け穴埋めインキは、低誘電化やバックドリル対応という高度な機能を加えながら、硬化後の表面を平坦にしやすい加工適性も維持している点が特徴である。

〈 研磨回数が増えるにつれて残存率が下がるということは、材料が良好に研磨されていることを意味する〉


“穴”の技術は、社会を支える“見えないインフラ”へ


 顧客となる基板メーカーなどでトライアルと検証を重ねてきた次世代高速通信基板向け穴埋めインキは、現在、量産化を見据えた段階へと進みつつある。実用化が進めば、この材料は単なる充填材料ではなく、高速通信基板の信号品質を支える重要な設計要素として位置づけられていくだろう。

そのインパクトは、基板メーカーにとどまらない。AIデータセンター、自動運転を支える車載電子機器、さらには6G時代の通信インフラに至るまで、高速・大容量・低損失の信号伝送は不可欠な条件となる。

表に出ることは少なくても、基板内部の“穴”を整える技術には、未来の電子機器の性能を底上げするポテンシャルがある。太陽インキ製造の次世代高速通信基板向け穴埋めインキは、次代のエレクトロニクスと通信を支える“見えないインフラ”を実現するための、第一歩となる技術だといえる。

関連リンク
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