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「守る強さ」をどう描いたのか、制作陣が語る表現の裏側【後編】

#TAIYO NEWS plus2026.07.28
「守る強さ」をどう描いたのか、制作陣が語る表現の裏側【後編】

太陽ホールディングスの新CM「たいせつなものを守る強さ。」篇は、ゴリラの生態と電子基板を守る素材・ソルダーレジストを重ね合わせることで、これまでのCMシリーズとは一味違う印象に仕上がっている。【後編】では、CMディレクターを務めた岩崎さんとの対談を通じて、映像表現へのこだわりを伺った。

▼前編をまだご覧になっていない方は、こちらからお読みください。
“静けさ”というブランド戦略。太陽ホールディングスが新CMに込めた想い【前編】 | TAIYO Global Post

情報を足すのではなく、削ることの意味
――新CMの完成、おめでとうございます。近年、素材メーカーやBtoB企業のCMが目に見えて増えている印象があります。制作の現場に立つお二人は、この状況をどう捉えていますか。

岩崎 素材メーカーのCMは確かに増えています。これまでは縁の下の力持ちという立ち位置で、CMを打つ必要性もそれほどなかった業界だと思います。それが最近は社名の認知はもちろん、採用競争の激化を背景に、CMを打つ企業が増えてきました。ただ私は、素材そのものの機能や効能を説明するだけで終わってしまう商品広告ではなく、その会社にはどんな人たちがいて、どんな色(個性)を持っているのかを伝えるブランド広告であってほしいと思っています。

吉野  そうですね、近年、素材メーカーのCMが増えるなかで、表現のトーンや構成が似通ってしまっているケースも少なくないと感じています。“企業ブランディングの立場としては、わかりづらい“素材”をつくっている会社であることを伝えたいがゆえに、さまざまな情報を盛り込みたくなってしまう気持ちはよくわかるのですが、その一点だけを強く打ち出そうとすると、どうしてもどの会社も似たような表現になってしまいますよね。


岩崎 確かにどのCMも情報量が多い印象があります。

 

吉野 有名タレントを起用し、タレントのイメージで勝負するCMも多いですが、私たちは他社と同じようなフィールドでは戦わないと決めています。世界を下支えする影の製品であることを、静けさの中で連想させるような、私たちらしさを感じさせるCMを、一貫して大切にしてきました。

 

岩崎 その取捨選択は本来とても難しいはずですが、そのコンセプト設計が御社はすでに完成していたので、制作者としては非常にやりやすく、潔さとかっこよさを感じました。言いたいことを全部詰め込んでしまうと、興味のない人にとってはむしろノイズになります。一つのメッセージに絞り込む余裕こそが、企業としての風格を感じさせるのだと思います。

CM依頼時のリクエスト
吉野 「楽しい世界は、楽しむ人がつくりだす。」というブランドステートメントのもと、私たちらしい品のある静かな空気感は大事にしながら、そこに会社の中身が伝わる要素をシンプルに加えたい。また他には絶対ない、一度見たら忘れられない、頭に残る作品であること。今回のご依頼では、そのようにお伝えしました。

 

岩崎 情報量を欲張らない、その慎ましさが素晴らしいと思いました。何も起きない数秒があるからこそ、観る人の意識がふっと引き込まれる。実はこの静けさへの感度は、「宇宙少女」の時点からすでに一貫していると感じていました。宇宙というモチーフは本来、壮大でロマンのあるものとして描かれがちです。それをあえて静かなものとして描いた、あのジャンプの仕方が、今回のゴリラを起用したCMにもそのまま受け継がれています。

 

吉野 そうですね。最初のCMは、とにかく静かなものをつくりたいという発想から宇宙になりました。テレビは情報が一方的に流れ続けてしまうメディアだからこそ、あえて音を止め、視聴者がふとテレビの画面に目を向けてしまう、その一瞬をつくりたいと考えました。

〈「情報を詰め込むだけでは、本当に伝えたいメッセージは伝わらない」と岩崎さん〉

ゴリラという答えは、理屈ではなく感覚から生まれた
ーー CMの方向性を固める過程では、ゴリラ以外にも様々な題材の案があったそうですね。最終的にゴリラ案が選ばれた経緯を教えてください。

 

岩崎 ソルダーレジストの魅力を、生活者が共感できるレベルでどう表現するか。そのモチーフを探していたとき、チームメンバーの一人が「ゴリラだ」と口にした瞬間、理屈より先に何かが符合する感覚がありました。荒々しいイメージを持たれがちなゴリラですが、実際は戦わずして群れや仲間を守る、穏やかな生き物です。その生態が、ソルダーレジストの「電子基板を守る」という機能と静かに重なり合いました。ゴリラを嫌いな人はいない、というのもモチーフとしての強さです。

 

吉野 ゴリラ案が最初に上がってきたとき、正直「これしかない」という手応えがありました。私たちが大切にしている静寂な空気感を守りつつ、他には絶対ない、一度見たら忘れられない、頭に残る作品になっている。ただ同時に、インパクトが強すぎるモチーフだったので、社内で受け入れてもらえるかという不安も大きかったというのが実情です。

 

岩崎 その不安については、私も気にかけていました。

 

吉野 まずは社内のCM制作チームに相談し、賛同を得たうえで、社長へのプレゼンテーションの場でも、実際に緊張感がありました。私の心配をよそに、CM制作チームも社長も、このCMに込めた意図やメッセージを、驚くほど好意的に受け止めてくれました。

 

岩崎 一見、まったく共通点がないゴリラとソルダーレジスト。2つの奇跡的な共通点の閃きとゴリラの醸し出す静かで、大切なものを守る強さを感じ取れる他にはない印象的な映像へ、太陽ホールディングスの皆さんが、迷いなく賭けてくださったのは、とてつもなく心強かったですね。

〈プロ同士の妥協なき対話。それこそが、最高の作品を生む原動力となる、そんな雰囲気が伝わってきた。〉

表現とブランド、その最適解を探して

――制作を進めるなか、お二人でディスカッションをすることはありましたか。

 

岩崎 もちろんありました。対立ではなく、より良いものをつくるための建設的な議論だったと思います。よく起こりがちな、クライアントはもっと伝えたいことを盛り込みたい、制作側はノイズになるから減らしたい、という綱引きのようなやり取りではなく、このCMが映像作品としてどうあるべきか、今までにない、評価される最高のものを作るにはどうするべきかという共通の視点での高度な議論を常にしていました。

 

吉野 象徴的だったのは、ラストカットの演出をめぐっての話し合いでした。太陽ホールディングスのロゴとタグラインをどう見せるかの検討時に、私は最後、ゴリラがソルダーレジストを手にした印象的なで終わらせる案を推していました。

 

岩崎 私はそこに違う意見をもっていました。吉野さんが推しているは目を引きますが、ゴリラがソルダーレジストを持っている姿はリアルではありません。今回のCMは自然界で暮らすゴリラの映像を使用し、多くを語らず、あえて作りこまない映像からゴリラの大切なものを守る強さを感じ取ってもらえる空気をつくっています。そしてそのシンプルな空気感からソルダーレジストとの共通点、大切なものを守る強さを感じ取ってもらうことを大切にしたCMです。           

そのCMの最後を作りこんだ、ゴリラがソルダーレジスト(基板)を持ったで終わることはCMで作り上げた空気感を壊してしまうと伝えました。

 

吉野 私も、素晴らしい作品としての一貫した空気感を大切にしたい岩崎さんの気持ちはよくわかります。一方で、会社として社名やロゴを一定の形できちんと見せ、印象的にさせなければいけない、という企業ブランディングの当事者でもあり責任者の立場もあります。そのせめぎ合いの中で、ちょうどよい塩梅を二人で生み出していきました。

〈「つくり手の気持ちがわかるからこそ、決断は重要です」と吉野さん〉

岩崎 吉野さんとお互いの意見をぶつけ合い、大事にするべき点のバランスを協議した結果、最終的には吉野さんが推していたシンプルな形に落ち着きました。吉野さんは、一方的に要望を伝えるのではなく、こちらの考えも汲み取りながら議論をしてくださいます。だからこそ、信頼して仕事ができました。最終的な意思決定は太陽ホールディングス側にあると考えていましたが、その過程を共につくれたことに意味があったと思います。

〈議論の結果生まれたラストカット〉

吉野 クリエイターの方々の考えを読み取ってしまう点は、私自身の弱さでもあると感じています。デザインを学んだ経験があるからこそ、良いものかどうかは判断できますし、この空気感を最後まで崩したくないというクリエイター側の気持ちや意図が理解できてしまいます。

 

岩崎 そこにある葛藤は、よく理解できます。会社としての立場と、良いものをつくりたいという思い、そのどちらでもないところで悩み続けることが、結果として両方を兼ね備えた最高の作品につながるのだと思います。

情報過多の時代にこそ、静けさは届く

――ゴリラとソルダーレジストを重ね合わせたメッセージは、今の時代の視聴者にきちんと届くという手応えはありますか。

 

吉野 信じるしかない、というのが正直なところです。ただ、情報が溢れすぎていて、スマートフォンすら見たくないという声もある時代です。昭和的なものへの再評価の流れもあるなかで、削って削って、本当に必要なものだけを伝えるというこのCMは、今の時代に合っていると感じています。

 

岩崎 私もそう思います。情報量の少ないアンビエントな表現※2は、見る人に知性のようなものを感じさせます。ジャンクな情報ばかりが流れてくるなかで、あえてアカデミックな情報を一つだけ差し出す。この静けさで攻めている会社は今のところほとんどないので、太陽ホールディングスさんがこのタイミングで一番乗りすることには、非常に意味があると思います。

※2 アンビエントな表現 主張しすぎず空気感に溶け込む表現

〈「いまの時代、太陽ホールディングスは稀有な企業。そしてそこが魅力」と岩崎さん〉

制作を通して見えた太陽ホールディングスらしさ

――今回の制作を通じて、太陽ホールディングスという会社への印象に変化はありましたか。

 

岩崎 正直なところ、太陽ホールディングスそのものというより、吉野さんが構築されたブランディングのあり方、クリエイティブの打ち出し方を通して会社を見てきた部分が大きいです。とくに印象に残ったのは「宇宙少女」の発想の原点が、表層的な技術イメージではなく「静けさ」という抽象的な感覚から出発していたと知ったときです。商品やサービスの訴求内容由来ではなく、それを前提としつつCMを観る人たちの気持ち由来の発想ができる人たちが社内にいて、会社がそれを後押しする風土がある。他者へのリスペクトがない人には、心のあるものはつくれません。

 

吉野 そのお言葉は、今回のキャッチフレーズにも重なる部分があると感じています。すぐれた素材ができあがるまでには、強い意志を持って挑戦し続けてきたたくさんの社員の存在があります。製品そのものの素晴らしさだけでなく、それを長い歴史の中でつくり、支えてきた人たちの静かな強い姿が、このCMを通して感じとっていただけたら嬉しいです。

 

――CM公開後、視聴者がどんな反応をしてくれたら嬉しいですか。

 

岩崎 動物園とかでゴリラを見たときに、ふとソルダーレジストを思い出してもらえたら理想的です。太陽ホールディングスという会社が、こういう豊かな表現を大切にするスピリットを持っている、ということが伝わってほしい。技術力の高さについては、すでに多くの方に理解されていると感じています。

 

吉野 岩崎さんがおっしゃってくれるようにゴリラを見てソルダーレジストを連想してもらえたり、太陽ホールディングスの企業文化が伝わったりすることはもちろん理想的ですが、私はそこまで至らなくても構わないと思っています。このCMをきっかけに、「何かたいせつなもので静かに世界を守っている会社だな」と、どこか心の片隅に残ってくれるだけで、十分うれしいですね。

 

 

岩崎 付け加えるとすれば、この時代に、あえて静けさを大切にし、多くを語らず、視聴者に考えさせる余白を与えるという思い切ったCMを制作し、テレビで流すという意思決定をした人たちがいる、という他にはない高度な価値に、太陽ホールディングスの皆さん自身が気づき、誇りにしてほしいと思います。観る人にも、どこかでそれを感じ取ってもらえたら、つくり手として大変光栄です。

 

 

静けさの中に込められた「たいせつなものを守る強さ。」という想い。その想いが、次にどのような形で展開されていくのか。今後の太陽ホールディングスの歩みにも注目したい。


●プロフィール

 

吉野由季子

東京都生まれ。高校在学中に単身渡米し、ニューヨーク工科大学でCG・ブランディングを学び、ニューヨークにて7年勤務。帰国後は、外資系医療機器メーカーでマーケティングやCOOを歴任し、15年以上ブランドマーケティングに携わる。2020年4月、太陽ホールディングスに入社し、Chief Branding Officerに就任。認知拡大から企業理解の醸成まで、段階的なブランド戦略の構築・推進を担う。

 

岩崎裕介

OND°所属、CMディレクター。1993年生まれ、慶應義塾大学文学部卒。学生時代は演劇に打ち込む。2017年東北新社入社、2019年ディレクターデビュー。会話劇を中心とした、静的で異物感のある演出を持ち味とする。2023年ACC TOKYO CREATIVITY AWARDSフィルム部門にてグランプリを含む4作品を受賞。2024年には映画レーベル「NOTHING NEW」より初の脚本・監督作品『VOID』を発表した。

最新映画『チルド』 は、第76回ベルリン国際映画祭のフォーラム部門にて、国際映画批評家連盟賞を受賞 。2026年7月より、全国公開中。

 

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